大賞(300万円+連載確約)

『Alive』
桃井ゆづき



【寸評】 

圧倒的な画力と構成力を兼ね備え、ストレスなくスムーズに読み進めることができました。まるで作品に誘導されるかのような没入感に、高い実力を感じます。
特にキャラクターが魅力的で、オラオラ系男性教師の挑発的な目、弱気な女子生徒が戸惑う仕草など、非常に幅広い表現で楽しませてくれました。

今作は、優等生女子と地味な女の子の友情を超えた学園生活に加えて、謎の不良教師の登場がありました。
飲み込むのに時間がかかりそうなキャラクターが複数出てきたので、キャラだけではなく舞台にも手を加えて分かりやすく見せられれば、さらに面白くなると思います。
引き込まれるドラマ性やシンプルな世界観、キャラの心理描写をもっと貪欲に突き詰められれば、読者の胸を鷲掴むようなインパクトを生み出せると思います。





金賞(100万円)

『神様のメッキ』
大塚素
【寸評】 

「推し」の引退により空虚さにさいなまれる主人公の心情が共感を生むとともに、その後に続くセンセーショナルなシーンで物語にグッと引き込まれました。
破滅的に見える主人公とヒロインの関係性、今後物語がどう転がっていくのかなど、続きが読みたいという期待感を強く感じさせました。

一方で、犯人の人物造形など、設定の詰めが甘い部分も見られました。
細部に至るまで突き詰めていくことで新たに見えてくることも多いと思うので、今後も追究する意識を持ち続けてほしいです。




銀賞(30万円)

『なんでもいいから俺を見て』
たぴるぱんだ



【寸評】 

「BL好きな先生に自分のことを気にかけてほしいがために男友達に抱きついてみせる」という主人公の行動、何重にも間違ってるのがいじらしくて心をつかまれました。
柔らかい絵柄がとても魅力的で、かといってお話はファンタジーすぎず、きちんとまだまだ同性愛への偏見が残る世相を反映した舞台設定ができているところも素晴らしかったです。

欲を言えば、先生のキャラクターをもっと生かした展開が作れると、より深みのある作品になると思います。




銅賞(10万円)

『のぞむのオートクチュール』
川松冬花


【寸評】 

主人公が幼少期から抱えるコンプレックスを乗り越えるまでの感情の動きについて、上手く表現されていました。
特に、感情が大きく動くシーンは「ここを見せたい」という思いが伝わってくる点も良かったです。
扱う題材に対する造詣の深さがうかがえ、自身の知識・経歴を活かせていると感じました。

絵については綺麗で整っている一方、やや平坦な印象を受けたため、構図・描線のメリハリがつくとより良くなるかと思います。
また、一部キャラクターについてはある種記号的に見受けられたので、その嗜好をもつに至った背景や抱える悩みについてより掘り下げられると共感性のあるキャラクターとなるのではないかと考えます。




『メロウボーイズ』
沢田りく

【寸評】 

作家さん自身が長い間同じボーイズグループを応援中ということで、「どういうアイドルをより応援したくなるか」など、アイドルファン心理に対する深い理解を感じました。
ボーイズグループの成長物語ということに加えて、もうひとつ読者の引っかかりになるような読み味が足せると、より面白くなりそうです。
男の子も女の子も生き生きとしていて魅力的で、ネームの状態からもキラキラしたエネルギーを感じました。

ただ、繊細な線の細さゆえに全体的に少しのっぺりした印象になってしまっているのがもったいなかったです。
トーン使いや線画の太さなどを工夫すると、格段にレベルアップすると思います。



『発見!オタク図鑑』
柏崎殻


【寸評】 

オタク女子に対する解像度が異様に高く、良い意味でとても意地悪な視点で世の中を見る観察眼を持っていると感じました。
また、「家ではそれなりに見えたのに外で見る自分がブス」など、オタクではない女子もあるあると共感できるような描写が多いのも、読んでいて楽しい部分でした。

主人公の「垢抜けたい」気持ちのゴールを明確に設定してあげると、読者がより物語に入りこみやすくなると思います。


『ヒルとヒト』
朝霧純

【寸評】 

今回の新人賞応募作は多くが女性向け作品でしたが、「ヒルとヒト」は王道の少年漫画です。
その魅力は圧倒的なクリーチャー描写力。一目見れば、その世界観に引き込まれます。

反面、キャラとストーリーは王道過ぎて先が読めてしまうので、次回は主人公と世界観設定を作りこんでいただければと思います。